横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.257 『かがみのなか』
 恩田 陸/作  樋口 佳絵/絵  東 雅夫/編  岩崎書店


 今回紹介する絵本は、岩崎書店の「怪談えほん」の6作目にあたる作品です。子どもたちは怖いものが好きだし、お化けや妖怪の出て来る絵本も人気があるとはいえ「怪談えほん」とは随分思いきったものをつくったものだと感じていました。しかも、怪談専門雑誌『幽』の編集長であった東雅夫さんを編集に据え、宮部みゆきさんなどそうそうたる作家を起用するなど、本気で怖い絵本をつくろうという気概が十分に伺えます。

この作品の作者である恩田陸さんは『六番目の小夜子』でデビューし、ミステリアスな作品を多く生み出している作家です。私は熱烈なファンとまでは言えないかもしれないけれど、最初に読んだ『ネクロポリス』以来、新刊は勿論のこと、『夜のピクニック』など代表的な作品の殆どは読んでいて、そのことがこの絵本を取り上げるきっかけになりました。

この絵本を見つけ園に買って帰ったところ、先生たちは「絵が気持ち悪いと」と言って誰も手に取ろうとはしませんでした。年長組のクラス懇談会の折、預っている子どもたちに「恐い絵本があるんだよ」と言ってこの絵本を読んでみたところ、鏡から手が出て来る場面から「こわい!」と言い出すようになりましたが、そう言いながらも喜んで見ているように感じました。

ところが翌朝、年長男児の保護者から「昨日うちの子が恐い絵本を読んだから怖くて寝られないというのですが、先生いったいどんな本を読んだのですか」と言われ、申し訳ないと謝りながらも、ちょっとうれしい気持ちにもなりました。

また、鏡とともにこの作品の大事な要素となっている蝶に関しては、魂とか死霊の化身ととらえている文化圏も多く、『2001年宇宙の旅』で有名なアーサー・C・クラークの小説『楽園の泉』にもそのようなくだりが登場してきます。

向こうの世界とつながっている鏡が、昭和20年度卒業生寄贈ということと、蝶との関係も何かいわくがありそうです。子どもたちに読むかどうかは別にして、ちょっと怖い世界に興味のある方は是非ご一読下さい。(S.T)

かがみのなか

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