横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.171  『 はじまりの日 』
ボブ・ディラン/作  ポール・ロジャース/絵  アーサー・ビナード/ 訳   岩崎書店

幼稚園の園長になって、一番苦手に思うことは、折々の行事の際に挨拶やら話をしなければならないことです。ひと月程前の卒園式でも、さんざん苦労して挨拶の言葉を絞り出し、当日を迎えました。会場の準備も整い、一息ついて、近くにあった絵本を手に取ると、アーサー・ビナードの訳になる言葉が目に飛び込んできました

この絵本は、アメリカを代表する歌手であるボブ・ディランが自分の息子のために書いた曲、『FOREVER YOUNG』の歌詞を追いながら、ポール・ロジャースが他のディランの曲のイメージをページごとの絵に盛り込み、1册の絵本に仕立てたものです。以前読んだ時には感じられなかったのに、式の前には、園を巣立っていく子どもたちに贈りたい言葉に溢れているように思えました。卒園式としては異例なことになってしまうけれど、思いきって式の中で読んでみようかとも思いましたが、少し勇気が足りませんでした。

きみが手をのばせば しあわせに とどきますように
きみのゆめが いつか ほんとうに なりますように
まわりの人びとと たすけあっていけますように
星空へ のぼる はしごを 見つけられますように 
毎日が きみのはじまりの日 きょうもあしたも あたらしい きみのはじまりの日
やくそくを まもって うそを きらいますように
このひろい 世界が きみの目に 光りますように
背を まっすぐのばして いつでも 勇気がもてますように 
毎日が きみのはじまりの日 きょうもあしたも あたらしい きみのはじまりの日
きみの手が ずっと はたらき つづけますように 
きみの足が とおくまで 走っていけま すように 
流されることなく 流れを つくりますように 
きみの 心のうたが みんなに ひびきますように 
毎日が きみのはじまりの日 きょうもあしたも あたらしい きみのはじまりの日

ボブ・ディラン自身は「ぼくは息子のことを考えながら、あまりセンチメンタルなものにはしたくないと思いながら書いた。ことばは向こうからやって来て、あっというまに書けてしまった」と語っていますが、『ここが家だーベン・シャーンの第5福竜丸』で日本絵本賞を受賞している訳者のアーサー・ビナードは、この「forever young」を、「はじまりの日」と訳しています。日本人の私は、素敵な訳だと思いながらも、ちょっぴり嫉妬もし、重ねて、私の挨拶の言葉はなぜ向こうからはやって来ないのかと思うのです。(S.T)

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はじまりの日

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