横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.125  『 てぶくろ 』
エウゲーニー・M・ラチョフ え     うちだりさこ やく   福音館書店

冬になると本屋さんに平積みされる『てぶくろ』。福音館書店の松井直さんは、どの画面でも同じサイズの“てぶくろ”に、それよりも大きなおおかみや、いのししまで含め七匹も入れてしまい、かつ不自然さを感じさせない描き方を、ラチョフの大魔術と言っています。また現実の世界からイメージの世界、そして犬の鳴き声とともに現実の世界に戻る手法や、“てぶくろ”が次第に家らしく変化し、煙突、玄関の釘、最後の場面のはちきれそうな縫い目など、絵本でしか表現できない世界を絶賛しています。冬には、いるはずのない蛙がなぜでてくるのか、など面白い考察もされています。

幼稚園での劇遊びで、この『てぶくろ』が演じられることがよくあります。いろいろな動物が“てぶくろ”に見立てた大きな袋にはいる劇になるのですが、「おおきなてぶくろに、大勢の動物が入って、当たり前じゃないの」になってしまいます。
ラチョフの大魔術の絵本で十分遊び、楽しんだ子どもたちが、不思議さのない劇を演じることにより、絵本のイメージの世界が壊されてしまうのではと、心配です。
発表会などで『てぶくろ』を取り上げようとしている保育者の方、ご一考をお願いいたします。こんなすばらしい絵本を容易な形で劇遊びに使わないで!と言いたいのです。

先日ある席で偶然ウクライナ出身の日本語学校に通う若い女性に会いました。ウクライナと聞いたとたんに近くの本屋でこの『てぶくろ』を買い、絵本を見てもらいました。それはラチョフが着ている服を通して社会的性格付けを表現していると聞いたことがあったからです。
彼女は話は知っているが、この絵本を見たことは無いとのことでしたが、着ている服からどのようなことが思い浮ぶかを話してもらいました。

ねずみ   貧しい人
かえる   農家の女性 スカートは民族衣装
うさぎ    貧しい人
きつね   少しハイクラス 民族衣装
おおかみ 貧しい人 つぎが当たっている 帽子は羊飼いがかぶる
       もので、狼などから羊を守る仕事をしている人
いのしし  お金持ち おしゃれな帽子 暖かいコート
       お金持ちはこんな服と帽子で旅行をするそうです
       冬は−35度にもなるので豊かな人ほどロングコートを
       着るそうです
くま      貧しい農家の人 コートが短い

おしゃれぎつねの服よりも、きばもちいのししのほうがおしゃれ着だったとは・・・

彼女の話を聞く限り、服を通して社会的性格付けを表現しているとは思えませんでした。日本の若い女性が日本民話のなかの服装について話ができないだろうと思う一方、突然の質問にもかかわらず細かく説明をしていただいた彼女には感謝のみです。
チェルノブイリのこととかウクライナの話を、もっと聞きたいと思いました。   (具)

てぶくろ

てぶくろ

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