横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.91  『 ノアのはこ船 』
ピーター・スピアー/絵・文 松川真弓/訳 評論社

梅雨時、幼稚園では読み聞かせの絵本として、雨に関連するものが選ばれることがあるのではないでしょうか。キリスト教系の園では、「ノアのはこ船」をテーマにした絵本がその中に含まれるかもしれません。今回ご紹介するピーター・スピアーの『ノアのはこ船』も、旧約聖書・創世記に書かれている「洪水」の一節をテーマにしています。しかし、この絵本では文章は冒頭と一番最後に記されているだけです。スピアーの緻密な絵だけで、十二分に内容を物語っているとは思えるものの、欧米では誰もが知っている話、ということになるのでしょうか。

特別、聖書に関心がなくても、「ノアのはこ船」という名前や話を聞いたことのある方は多いと思います。また、この話がメソポタミアのニネヴェの遺跡から出土した粘土板に刻まれていた有名な『ギルガメッシュ叙事詩』の内容と共通しているということの方に興味を持たれている方も少なくないのかもしれません。私もまさにその一人です。

「洪水神話」は、メソポタミア以外にも世界各地に残されており、「大洪水」を我々の祖先たちが何度か経験していることも間違いないように思います。それでは、「はこ船」の方は果たしてどうなのでしょうか。ギリシャ神話を信じてトロイやミケーネを発見したシュリーマンのように、そのうちに誰かが、「はこ船」を発見するのかもしれません。

ユングは、「個人の中には、個人的無意識と集合的無意識の2つが根づいており、この集合的無意識は、人類に共通した精神的継承を宿している」といっています。神話や昔話に聞き入ったり、英雄や神々にも似た存在が登場し活躍する、現代版神話ともいえる『スターウォーズ』に胸ときめいてしまうのも、この精神的継承の所以なのでしょうか。

スピアーは、この作品で、1978年のコルデコット賞を受賞していますが、その他にも2003年にジェリー・ピンクニーの『Noah’s Ark』が同賞の次席に選ばれるなど、多くの作家が力作を残しています。欧米の人々は、「ノアのはこ船」の物語が、自分達の祖先と繋がっているという感覚を、我々より強く持っているのかもしれません。(S.T) 

ノアのはこ船

ノアのはこ船

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