横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.63  『 ジャリおじさん 』
えとぶん おおたけしんろう  福音館書店

随分前になりますが、幼稚園の子どもに、私が子どもの時、屋根の上に登るのが好きだったという話をしたことがありました。子ども達はいろいろなことを聞いてきましたが、一人の子どもが、「じゃあ、そこでくるっと振り向いたら何が見えたの」と聞きました。私はその言葉で、記憶の中の自分を振り返らせてみました。すると、振り返った自分の目に映った情景は、明るく灯のともった二階の部屋の中で、楽しそうに食事の支度をしている母親の姿でした。しかし、子どもの時に私が住んでいた家は平屋だったので、その情景は、屋根の上から垣間見た確かな記憶ではなく、子どもの時の私の憧れだったのだろうと思います。その時以来、私は記憶の中で時々くるっと振り向いてみることがありますが、心の中に浮かぶ情景は、いつも決まった子どもの時の一場面なのです。

この絵本は、いつも海を見て暮らしていたジャリおじさんがクルリと後ろを振り向くところから始まります。でも、おじさんの目に映ったものは、私とは違って、ずうっと続く黄色い道でした。そして、おじさんは、その道を歩き出し、大竹伸朗による上手とも下手ともつかない不思議な絵と不思議なお話が続いていきます。

この本の不思議さを解く一つの手掛かりは、この「ジャリ」という名前がおくづけに控え目に記されている「MONSIEUR JARRY」からも伺えるように、フランスの詩人・劇作家で、シュールレアリズムの先駆者といわれる、アルフレッド・ジャリからとられているということです。そして、絵においても文章においても、ジャリの作品に負けないほどのシュールさを保ちながらも、何か哲学的な匂いを醸し出しているところが、この絵本の魅力なのだと思います。私にもいつか振り返ったときに何か道が見えるのでしょうか。そして、もし見えたとしても、果たして、その道を歩みだすことができるのでしょうか。(S・T)

ジャリおじさん

ジャリおじさん

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