横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.38  『 ぼくを探しに 』
シャル・シルヴァスタイン/作  倉橋由美子/訳  講談社

子どもが母親と一緒にデパートから出てきた。頬を赤く上気させ、大事そうにおもちゃの箱を抱えている。きっと、もう他のおもちゃなんか絶対に欲しくならないと思っているはずだ。でも、その子は直に、その気持ちが本当じゃなかったと気付くことになる。私にも同じ記憶がある。そうしてだんだん大人になっていく。
 バス停に、学校帰りの女の子達がやってきた。仲の良さそうな二人がうれしそうに話している。恋人ができて、毎日本当に幸せだと話している。その言葉に、これっぽっちもうそはないだろう。でも、その気持ちを一生持ち続けることは難しいと思う。そうしてだんだん大人になっていく。

人はどうして何かを欲しくなったり、誰かを好きになったりするのだろうか。それが、自分の「かけら」を探しているということなのだろうか。だけど、もともと完全な人間なんていやしない。みんなどこか欠けたところを持っている。それを何とか埋め合わせようと無理しても、あんまりいいことなんかないかもしれない。それより、でこぼこしていて当たり前、それでOKなんだと思った方がいい。

子どもから大人に成長していくということは、いろいろなものを得るのと同時に、ひょっとしたらそれ以上に大切な何かを失っていくことになるのかもしれません。そして、その喪失感が、なくした「かけら」を求めるという意識に結びついていくのかもしれません。でも、私は、なくしたものを探すと考えるよりも、自分のどこかにあるまだ開いていない部屋の「鍵」を探すと思った方がいいと思うのです。きっと新しい部屋の中にはまた新しい扉が見つかるのでしょうが、それでも自分の世界が少しずつ広がっていくことになるし、案外、最初の部屋が一番自分にぴったりするということに気づくことだってよくある話だと思うのです。そんなことを思っている方にお薦めの1冊です。(T.S)

ぼくを探しに

ぼくを探しに

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