横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.25 『 どろんこハリー 』
ジーン・ジオン/文 マーガレット・ブロイ・グレアム/絵 わたなべしげお/訳 福音館書店

“黒いブチのある白い犬”と“白いブチのある黒い犬”、向き合って並ぶ2匹の犬が印象的に表紙を飾ります。子どもたちに読み聞かせをしていると、この表紙を見たとたんに子ども達の想像力が働き始めます。表紙をめくると、扉には湯気の立つバスタブに前足をかけ、ブラシをくわえた“黒いブチのある白い犬”が現れ、さらに一枚ページをめくると、見開きの中表紙で“黒いブチのある白い犬”がブラシをくわえ、バスタブを背にチラッと見やりながら走って行きます。ストーリーについては一切語られないこの段階で、子どもたちはこの絵本にすでに引き込まれてしまっているようです。

“ハリー”は黒いブチのある白い犬、何でも好きだけどお風呂にはいることだけは大嫌い。お風呂にお湯を入れる音が聞こえたので、ブラシをくわえて逃げ出して、裏庭に埋めると外へ抜け出しました。道路工事の現場や下を蒸気機関車の通る橋の上であそぶうちに全身真っ黒に汚れ、“黒いブチのある白い犬”が“白いブチのある黒い犬”になってしまいます。あそび疲れておなかも減って、うちの人が心配してるといけないと家へ帰るのですが、“白いブチのある黒い犬”のハリーには誰も気づいてくれません。そこでハリーは知っている芸当を披露して、必死の努力をしましたがそれでも気がついてくれませんでした。そんなハリーのとった行動は・・・・。

ここまで読んでくると、「あれっ?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。そう、まさにハリーは子どもとだぶっているのです。今でこそ、ファミコンだ何だと外あそびをする子どもの姿が見られなくなってきていますが、外で、しかも少し危険かなと思われる場所で、真っ黒になってあそぶ姿は子どもたち、特に男の子のあそびの原風景ではないでしょうか。緑とオレンジと黒で描かれた1950年代の風景をバックにあそぶ(この絵本が描かれたのは1956年)“ハリー”に、大人である自分自身も子どもの頃の姿を重ね合わさずにはいられませんでした。

最後に、その日を振り返るかのように満足げに眠る“ハリー”の表情が、何とも言えぬこの絵本のあたたかさを物語っているようです。そして、是非ここまで読んだ後に裏表紙と、もう一度表紙の対になった“ハリー”を、余韻を楽しむように何も語らずにお子さんに見せてあげてください。きっとお子さんも満足げな表情をしているのではないでしょうか。

この『どろんこハリー』の魅力は、絵本の重要な要素の一つである“絵”の力にあるのではないでしょうか。“絵”は子どもたちに語りかけますし、子どもたちは素直にそれを受け止めます。つい文章を追ってしまう大人とは明らかに違い、絵本の魅力を知っているのだと思います。(M.K)

どろんこハリー

どろんこハリー

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