横浜市幼稚園協会

子育て応援団 〜絵本の散歩道〜

NO.22 『 よあけ 』
ユリー・シュルヴィッツ/作・画  瀬田貞二/訳  福音館書店

この絵本は、世界で最も美しい絵本を選ぶというナンセンスな企画がもしあったとしたならば、その一冊に選ばれても決して不思議ではない程に美しい絵本です。作者のユリー・シュルヴィッツは1935年にポーランドのワルシャワに生まれ、第二次大戦にあって各地を転々とした後、戦後イスラエルに移って教員養成機関で学び、24歳でアメリカに渡りました。これから察すれば、シュルヴィッツはユダヤ系の人なのだろうと思います。ポーランドでも第二次大戦中は、ユダヤ人に対する激しい迫害や虐殺がありました。強制収容所では小さい子どもは真っ先に殺害されたと言われていますので、アンネ・フランクより6歳年下のシュルヴィッツが無事に終戦を迎えるための苦労は、並大抵のものではなかったはずです。日本語版では、割愛されていますが、原書の中扉の後のページに「Tomy parents」と記載されているのも、そのような思いが込められているのかも知れません。 この絵本は。シュルヴィッツが、唐の詩人、柳宗元の七言詩「漁翁」にインスピレーションを受けてつくったと記されている通り、漢詩の響きにマッチしたかのような文章の簡潔さがその特徴の一つとなって、絵の美しさを際立たせています

シュルヴィッツは、この本が出版される前年に、『空飛ぶ船と世界一のばか』(岩波書店)という絵本で、カルデコット賞を受賞していますが、その絵本とは全く違った画風を用いて、このような美しい絵本を創り上げたということは、まさに称賛に値することではないかと思われてならないのです。(T.S)

よあけ

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